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アラスカ夏物語り-2

クマさんのサケ漁
カトマイ国立公園、アラスカ Katmai National Park, Alaska


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ブルックス滝に跳び上がるサケを穫るグリズリー

低い雑木が茂るトレイルを抜けて池のそばに出ようとした時だった。若い女性のレンジャーが、ボクの前を歩いている数人のグループを制止した。ちょうどその先の池でクマの親子が魚捕りをしているところだった。 しかし、すぐに後ずさりするように命じた。クマがサケを捕まえて上がってきたのだ。その時の距離はまだ50メートル以上はあった。クマの親子は私たちが立ち止まっている一本道のトレイルを反対側からじわじわと、こちらに向かって歩き出した。母グマが今捕ったばかりの大きなサケを口にくわえ、その後ろから3頭の子グマがついて来る。


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母クマは子供たちに漁の仕方から生きる術を教える

突然母グマがボクたちを見るとダッシュした。道は細い一本道。キャーと嬌声が上がったかと思うや、若い女性が走った。それにつられて皆が、クマに背を向けて一目散に逃げ始めた。若いレンジャーも何か叫んでいたが逃げるのは同じ。一人逃げ遅れたボクは薮の中のトウヒの後ろに隠れるのがやっとだった。数メートル離れた目の先を4つの黒い固まりがあっという間に走り過ぎた。ほんの数秒間の出来事だったが、これがここでのクマとの初遭遇だった。

ブルックスキャンプに到着したら、まず全員がレンジャーステーションで、クマに対する安全講習を受けなければならない。「クマを見つけたら目を合わせないようにして彼らに道をあける」「森の中を歩く時は常に音を出してクマに自分の存在を知らせ、驚かさない」「子連れのクマは特に凶暴なので80ヤード以上の距離を置く」「食べ物を持ち歩かない」……。とにかくクマが何をしたいのかを理解して、我々人間は一歩下がらなければならない。しかし、突然クマが走ってきたらどうするか? そんな経験のない皆は一斉に逃げ出し、経験を積んでいるはずのレンジャーもパニックになったら同じだった。ここはクマたちのテリトリー。腹を空かせた子グマを連れた母グマは、自分たちのテリトリーに勝手に侵入してきた人間たちを見つけて、餌を取られないように突然走り出したのだったが、机の上での講習など、実際に野性を相手にしたら、あまり役に立たないことを思い知らされたのだった。

カトマイ国立公園はアンカレッジの西南に位置し、秋田県とほぼ同じ面積を持つ国立公園だが、陸上からの交通の手段はまったくなく、アンカレッジまたはホーマーからキングサーモンへ入り、そこから小型の水上飛行機で入るしかない。それだけに人間の手付かずの自然が残されているのだが、何と言っても、ここはブラウンベアーの棲息地で、特に公園内は彼らの生活が完全に保護されている。だから、ここでは先住者のクマさんたちが何でも最優先、人間は侵入者として彼らを遠くから覗き見ることが許されているだけなのだ。


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6月末サケの第1陣があがって来る


6月末、このブルックス川に何万匹というサケの大群が上り始めると、それまで山の中で草や木の実を食べていたクマたちは、こぞって川に下りてくる。そして、川の中ほどにあるブルックス滝が彼らの絶好の狩場となり、それを見ようと人間たちが、川辺に作られたプラットフォームに鈴生りに溢れるのである。

ここにいるクマたちはブラウンベアーで、アラスカのデナリー公園など、山の中にいるグリズリーとは少し違う。グリズリーの方が大きいと思われがちだが、サケをたっぷり食べて栄養をつける、海側に住むブラウンベアーの方がひとまわり大きいのだ。 1年のうち半分は冬眠しているから、彼らにとって、この夏場の半年が生きるための正念場となる。だから卵をたっぷり貯えた栄養満タンのサケを、毎日食べて食べまくり、冬場に備えるのだが、春先と比べ、冬眠前の秋ではそれぞれ50キロくらい体重が増え、艶のある毛皮に被われた見事な体格になる。それに比べて、人間の釣り人はとても可哀想だ。「キャッチ&リリース」がスポーツフィッシングのルールだとはいえ、この川に溢れるサケをいくら多く釣り上げても、一日に持って帰れるのはたったの1匹だけと聞いた。


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ブルックスキャンプにはロッジとキャンプ地があるが、7月のシーズンは2年先まで予約がぎっしりで、キャンプ場も1月の予約開始と同時に満杯となり、国立公園内に泊まることは難しい。そこで、大部分の人たちは近くのキングサーモンのモーテルに泊まり、そこからエアタクシー(水上飛行機)で通うことになる。八方手を尽くしたボクは、幸運にも公園の北側にあるノンヴィアヌク湖畔にあるキューリックロッジに泊まることができた。 キューリックロッジは釣り人たちのパラダイスと言われるが、まさに噂にたがわぬ、手付かずのアラスカの自然を満喫させてくれる別天地だった。アラスカの夏は、夜中の1時頃、申し訳程度に暗くなるだけで、一晩中白々としたミッド
ナイトサン(白夜)が続く。そして、朝の4時過ぎにはまた日が昇る。


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アラスカ半島のアルプス、アリューシャン山脈
 


ここで働く人たちは個性的な人が多い。パイロットのエドは、冬場はフロリダで暮らし、夏の間だけここで飛行機に乗る。料理人のジムもガイドのウエインも皆同じ、夏の半年間だけアラスカに帰ってくる『アラスカホリック』たちだった。そして皆の顔が同じように生き生きと輝いていた。 水しぶきを上げて、エドの操縦する機が湖を離れると、すぐ目の下はトウヒの尖った林となった。水苔の朝食に忙しいムースがちょっと頭を動かして上を見たが、すぐに顔を水の中に没してしまった。 エドは上空の霧を避けて、山の稜線を縫うように低く飛行する。少し茶色になった雪が山肌に引っ掛かるように残っていた。やがて朝日に反射するナクネック湖が現れると、機は滑るようにブルックスキャンプに着水した。

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アラスカではエアータクシーが交通の手段だ


ブルックスロッジからオックスボウ池を抜けると、雑木林のトレイルになる。ここからブルックス滝まで約20分のハイキングだ。踏み固められたトレイルを少し外れると、ふかふかとした地衣類の苔の絨毯が疲れた足に気持ちいい。道端には野苺の白い花が存在を誇示するように咲いていた。 ボクは「クマさーん、クマさーん!」と大声で叫びながら歩いた。皆が「ヘイ・ベアー!」と英語でやっているから、ボクはわざと日本語でやった。するとこれが通じたのか本当に2頭の若いクマが薮の陰から現れた。こちらは一人だったので少し緊張したが、先日の親子グマとの教訓があったのでパニックにはならなかった。クマと目を合わせないように「クマさーん、クマさーん」となおも独り言のように語りかけると、2頭は危害の心配がないと分かったのかどこかへと去って行った。クマたちも人間が踏み固めた歩きやすいトレイルを好んで歩くのだった。


ブルックス滝には朝早くからすでに3頭のクマたちが水の中に入ってサケ漁を始めていた。ここでは縄張りがあり、若いクマは滝つぼの上で待ち構えジャンプするサケを捕まえるが、強いクマや年寄りグクマはサケが密集する滝つぼの下で悠々と漁をしていた。それでも一番強いオスが来ると皆が場所をあけた。ここで一番強いオスは黒い毛がふさふさと輝き、筋肉は盛り上がり、どこから見ても貫禄があった。彼が来ると他のクマたちはうやうやしく場所をあけたが、その日彼は滝つぼでは漁をせず、広い川の中ほどでいきなり水の中へジャンプして難なくサケを捕まえ、すぐに森の中へ消えた。彼は決して食べるところを人前で見せなかった。

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滝ツボの近くはサケ漁のベストスポットだ。


最初の日に出会った母グマには3頭の子供たちがいた。昨年春に生まれた1歳児だが、「べーべー」といつも甘えてくっついて離れない。母親は乳離れまでの2~3年間、子供たちといつも一緒だ。そして、野性で生きていく総てを教える。クマの世界は完全な母子家庭で、父親は誰か分からない。しかもオスは子供たちを見ると殺してしまうのだ。食べ物の少ない自然界で種族を維持するための摂理の一つとはいえ、実際に起きた話を聞くと悲しくなる。 母さんグマは、サケの多い滝つぼで漁をして、子供たちに腹一杯食べさせてやりたいのだが、危険な雄グマたちを恐れていつも安全な川下の池で漁をしていた。それでもサケはいっぱいいた。子グマたちは母親の漁を岸辺でおとなしく見つめているが、母親がサケを捕まえると我先にと川に飛び込んで奪い合った。なんだか夕食のおかずを取りっこした自分の子供時代を思い出して笑ってしまった。

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母と子の慎ましい食事


一日中クマたちと過ごし、夕方迎えに来たエドの水上機でキューリックロッジに帰ると、マネジャーのピートがブランデーのボトルを抱えて迎えてくれた。釣り師たちを「魚臭い」とからかい、ボクには「クマ臭い」と冗談を言った。酒を空っぽの胃に流し込むと疲れも吹っ飛んだが、いつも貧乏旅行をしているボクには、このもてなしがどこかこそばゆかった。 夕食までの時間つぶしに揺り椅子に揺られながらノンヴィアヌク湖の波の音を聞いていると、北極地リスが遊びにやって来た。夕食の合図の鐘が鳴ると、今度は裏山に住んでいるキタキツネが降りて来て地リスを追っ払った。短いアラスカの夏は、ここではゆっくりと過ぎていった。

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母子は親離れまでの3年間片時も離れない



『カトマイ国立公園の楽しみ方』

行き方:カトマイ国立公園へはアクセスする道路がないので、公園の表玄関ナクネック湖のブルックスキャンプまでエアタクシーと呼ばれる小型水上飛行機かボートで行くしかない。ブルックスキャンプには私営のブルックスロッジ(16キャビン)とキャンプ場があるだけで、他に宿泊施設はない。ブルックスロッジは2年先まで予約でふさがっており、個人での予約は難しいので、ロッジを運営しているKatmai Land, Inc.に電話してパッケージツアーを利用するのが一番賢明だ。
宿泊:
Katmai Land, Inc.では公園の近くに他に3か所のロッジを運営しているので、どれかに泊まり、エアタクシーで毎日ブルックスキャンプまで送り迎えしてもらう。釣りが趣味の人だったら、ここのパッケージツアーでスポーツフィッシングとクマ見学を組み合わせたのがお勧めだ。(料金は変わるので予約の時に要チェック)
Katmai Land, Inc.:4125 Aircraft Drive, Anchorage, Alaska 99502
Phone: 1-800-544-0551 www.katmailand.com,Email: info@katmailand.com
キングサーモン
行き方:アンカレッジからキングサーモンへはシーズン中、1日数往復の定期便が運行している
(Pen Air 907-246-3372)ので、キングサーモンにあるモーテルに泊まり、そこからエアタクシーでブルックスキャンプに。

宿泊:
Quinnat Landing Hotel
PO Box 418, King Salmon, AK 99413、Phone: 1-800-770-3474, Fax: 907-246-6200

King Ko Inn
PO Box 346, King Salmon, AK 99613,Phone: 907-246-3377, Fax: 907-246-3357


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ひとときの涼をありがとう

 大阪は猛暑です。朝起きると枕が汗でびしょ濡れ、首筋があせもで赤くただれています。今、スライドショーを見てアラスカに感動しました。引き込まれて暑いのも忘れてしまいました。命がけの取材だったようですね。ありがとうございました。
プロフィール

カズさん

Author:カズさん



全米の国立公園全58カ所を踏破したカメラマンが、60歳を機にアメリカ探険に再挑戦。観光では行けない、大自然と野生動物たちとの出会い。そして故郷日本へ帰り日本の野生動物、心の風景そして祭りに感動、28年ぶりの「日本再発見」を紹介します。それぞれの作品はデジブックのスライドショーで楽しめます。



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